
骨折後、脚の弱りに戸惑う方へ
退院してから、トイレの往復だけで脚が震える。椅子から立つときに家族の手を借りる。その原因が年齢なのか、骨折なのか、寝ていた時間なのかは、自分ではなかなか見分けられません。この記事では、廃用症候群の意味と原因、相談先に伝えたい内容を整理します。脚の弱りへの対処は、原因を確かめて動いてよい範囲を知ることから始まります。
この記事の要点まとめ
- 廃用症候群は、入院などで横になって動くことが減り、筋肉や関節、心臓や肺などの働きが落ちる状態です。
- 脚の弱りは骨折の状態や痛み、栄養なども確認し、動いてよい範囲を医療職に相談します。
- 動作や食事の変化を記録し、退院した病院や整形外科へ共有します。急な片側の脱力や強い息苦しさは救急車を呼びます。
廃用症候群とは?入院・安静で脚力が落ちる原因

筋肉だけでなく、暮らしを支える機能が低下する状態
廃用症候群とは、必要以上に安静にしたり、長く寝たままでいたりして体を使わない時間が続き、筋肉や関節、心臓や肺、気持ちの面まで働きが落ちていく状態です。「生活不活発病」とも呼ばれます。年を重ねたことによる衰えと似て見えますが、きっかけは「動かない時間」にあります。
寝ている間、脚の筋肉は体重を支える仕事をほとんどしません。安静が続くと、太ももの前の筋肉の力が弱まり、筋肉もやせていきますが、安静の初期ほど落ち方が大きいとされています1。その結果、立ち上がりやトイレへの移動といった日常生活動作(ADL)に影響が出やすくなります。
骨折の痛みや動く怖さが、活動量を減らすきっかけに
骨折の治療に必要な安静と、指示を超えて横になり続ける生活は分けて考えます。痛みや「また転ぶかも」という怖さ、気分の落ち込みは内側からのきっかけです。治療上の安静や手厚すぎる介助は、外側からのきっかけになり得ます。
健康な成人でも、数日間寝たままで過ごすと、筋肉をつくるたんぱく質がつくられにくくなり、筋肉が減り始めます。高齢の方、もともと筋力が少ない方、持病や食事量の低下が重なる方は、より注意が必要です。
歩くと疲れる、関節が硬い、食事や昼寝が変わったら
変化は脚力だけにとどまりません。
- 少し歩くと息が上がる(体力や心臓・肺の働きが落ちる)
- 膝や足首が伸ばしにくい(関節が硬くなる)
- 起き上がると立ちくらみがする(起きたときに血圧が下がる)
- 食事が減る、飲み込むときにむせる、昼寝が増える、意欲がわかない
こうした変化も、受診のときに話してかまいません。ただし、すべてが廃用によるものとは限らず、別の病気が関わっていることもあります。
脚の弱りを廃用と決めつけず、動ける範囲を確認する
骨の治り具合・痛み・ほかの病気も調べる理由
脚が弱ったわけは、診察で一つずつ確かめていきます。入院の前後にどれくらい動いていたか、どれくらい安静にしていたか、筋肉の力、関節の動き、歩き方、食べる量を聞きます。そのうえで、骨折したところの様子や薬の影響、貧血、神経の病気なども考えます。
レントゲンなどの画像検査は、骨の治り具合を見るために必要に応じて使います。とはいえ、廃用症候群そのものを画像だけで判断することはできません。安静で筋力が落ちることはありますが1、ご自宅のチェックだけで原因を決めるのは難しいところです。
痛みを我慢して歩かず、起きる時間や運動量を相談する
痛みをこらえて歩く必要はありません。目安になるのは退院時の指示です。コルセットなど装具の使い方、避けたい姿勢、立つ・歩く範囲、休憩の取り方を医療職に確認しましょう。
手術後に早めに起きて動くことは、回復を支える取り組みの一つです2。ただし、腰椎圧迫骨折など骨折の種類や状態によって進め方は変わります。運動を加えて動き始めたとき、短期間で筋肉の量や働きがどの程度変わるかは、まだ十分にわかっていません3。
許可された範囲で少しずつ活動を増やすのが基本です。一般的には、リハビリテーションは治療の大切な柱の一つです。痛みが増す、強い疲れが翌日まで残る、めまいがするときは中断して相談してください。
回復の見通しは安静期間や栄養状態によって異なる
動ける力を取り戻すことを目指して取り組めますが、いつ、どこまで元に戻るかを前もってお約束することはできません。安静にしていた長さ、骨のつき具合、入院前にどれくらい動けたか、持病、栄養が足りているかがそれぞれ関わります。
筋力や筋肉の量は、安静にし始めたころほど大きく落ちやすくなります1。体重の変化や食事量の減り方も伝え、必要に応じて栄養面の支援につなげてもらいましょう。
ポイント
「年齢だから戻らない」と決めつけず、原因と動いてよい範囲を確かめてから、少しずつ活動を増やしていきます。
立ち上がりにくさや歩行の疲れは、どこに何を相談する?
急に歩けない・息苦しい場合は、様子を見続けない
少しずつ進む脚の弱りと、急に歩けなくなる状態は分けて考えます。突然の片側の手足の脱力や言葉の出にくさ、胸の痛みや強い息苦しさがあれば救急車を呼んでください。急に強まった腰の痛み、脚のまひ、新たに尿が出にくい・漏れるといった変化も、すぐに受診が必要です。
一方、つまずく回数が増えた、トイレの移動に介助が要るようになった、食事が減ったという変化は、急ぎでなくても早めに相談してよいサインです。安静の影響は初期に出やすいため1、気づいた時点で伝えることに意味があります。
退院した病院には動作制限を、整形外科には今の困りごとを
相談先は一つに絞らなくてかまいません。
| 相談先 | 主に確認したいこと |
|---|---|
| 退院した病院 | 骨折の経過、装具や動作制限、活動を増やしてよい範囲 |
| 整形外科 | 骨折後の痛み、脚の弱り、リハビリテーションの進め方 |
病院やクリニックの間で情報を引き継ぐため、退院したときの書類やお薬手帳があると話が早く進みます。早く動き始めることには意味がありますが2、いつ始めるかは主治医と相談して決めます。歩くのがつらく通えないときは、まず電話で受診の方法を問い合わせてください。
動けた範囲・食事量・家族の介助を記録して伝える
受診の前に、短いメモを残しておくと伝えやすくなります。
- 立ち上がりにどれくらい手助けが要ったか
- どこまで移動できたか、痛みや疲れの程度
- 食事の量、夜の睡眠と昼寝の時間
ご家族の腰の痛みや、手助けをするうえで大変なことも、遠慮せず書き添えてください。介護の手が必要になってきたら、地域包括支援センターや担当のケアマネジャー(介護の相談や手配をする人)にも伝えられます。
リハビリテーションでは、日々の記録と太ももの筋力などの数値を照らし合わせながら、寝たきりにならないための進め方を考えます。調べる時期や項目は体の状態や医療機関によって異なり、どこまで行うかは骨折の状態をみて判断します。当院に限らず、相談先には困りごとを小さく見積もらず、メモにまとめて伝えてください。
よくある質問
Q. 廃用症候群になりやすいのはどんな人ですか?
A. 骨折や病気で入院や安静が続いた方、高齢の方、もともと筋力が少ない方に起こりやすいとされます。痛みや気分の落ち込み、食事量の低下が重なると、横になる時間がさらに増えやすくなります。
Q. 廃用症候群は回復しますか?
A. 動ける力を取り戻すことを目指して、リハビリテーションに取り組むことはできます。ただ、戻る時期や程度は安静の期間、骨折の状態、持病、栄養状態によって異なり、前もってお約束はできません。見通しは医師にご相談ください。
Q. 廃用症候群が進むと、どのような状態になりますか?
A. 立ち上がりやトイレへの移動が難しくなり、日々の暮らしで手助けが必要になることがあります。動く時間が減るだけでなく、食事や昼寝の時間が変わることもあります。小さな変化のうちに相談しておくと、対策を考えやすくなります。
Q. 整形外科のリハビリは週に何回くらい通うものですか?
A. 通う回数は骨折の治り具合や痛み、ご自宅でできる運動の量、通う大変さによって変わるため、みな同じではありません。動き方をこまめに確かめる必要があれば回数を増やし、ご自宅で運動を続けられるようになれば通う回数を減らすこともあります。医師や理学療法士と相談して決めていきます。
Q. リハビリの費用はどのくらいですか?
A. 費用は保険の種類や、ご自身で支払う割合によって変わります。当院を含め、実際にかかる費用は受診先でお尋ねください。
Q. 食事が減ったことや昼寝が増えたことも、整形外科で話してよいですか?
A. はい、話してください。食事量や生活リズムの変化は、活動量や体力を考えるうえで手がかりになります。一般的には、整形外科以外の受診が必要かどうかも相談できます。
参考文献
1. Marusic U, Narici M, Simunic B, et al. Nonuniform loss of muscle strength and atrophy during bed rest: a systematic review. Journal of applied physiology. 2021. PMID: 33703945 / DOI: 10.1152/japplphysiol.00363.2020
2. Alsuwaylihi A, O'Connor D, Joshi GP, et al. Importance of early postoperative mobilization: comprehensive review. BJS open. 2025. PMID: 41873570 / DOI: 10.1093/bjsopen/zrag016
3. Shur NF, Simpson EJ, Crossland H, et al. Bed-rest and exercise remobilization: Concurrent adaptations in muscle glucose and protein metabolism. Journal of cachexia, sarcopenia and muscle. 2024. PMID: 38343303 / DOI: 10.1002/jcsm.13431
山口大学医学部 卒業
山口大学医学部付属病院 卒後臨床研修
2005年
山口労災病院
2006年
山口大学医学部付属病院整形外科学講座へ入局
2007年
山口県立総合医療センター レジデント
2009年
周東総合病院
2012年
山口大学医学部 臨床助教
2014年
山口県立総合医療センター 整形外科 部長
2017年
瀬戸病院 副院長
2020年
瀬戸整形外科クリニック 院長
2022年
山陽小野田医師会 理事
日本整形外科学会 認定リウマチ医
日本リハビリテーション学会 リハビリテーション専門医
日本手外科学会 手外科専門医
日本プライマリ・ケア学会 認定医・指導医
国際マッケンジー協会認定セラピスト
日本スポーツ協会 スポーツドクター
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