
骨折後の「動かない時間」が気になるご家族へ
痛みを怖がって横になったままの親を見ていると、このまま寝たきりになるのではと気がかりになりますよね。過度の安静が続くと、筋力も意欲も短い期間で落ちやすいと指摘されています。この記事では、ご自宅で取り組める段階的な運動と、無理をさせない見守り方を整理してお伝えします。
この記事の要点まとめ
- 骨折部は保護しつつ、他の関節や筋肉は主治医の許可範囲で動かすことが廃用症候群予防の考え方とされています
- ベッド上の足首体操から座位・立位へ段階的に進め、生活動作を活動の機会にする工夫が続けやすいとされます
- 住環境の整備や見守り方の工夫、整形外科でのリハビリ・骨密度確認と栄養管理を組み合わせることが役立つと考えられます
過度の安静は逆効果?骨折後に廃用症候群が進行する仕組み
「痛みが消えるまで完全安静」という誤解とリスク
骨折した部位を保護することは大切な考え方です。ただ、体まるごと休ませてしまうと、別の課題が生まれることがあります。動かない状態が続けば筋肉量は減りやすく、高齢の方では想像以上に短い期間で立ち上がりや歩行がつらくなる場合があると指摘されています1。
こうした過度の安静にともなう心身の機能低下は生活不活発病(廃用症候群)と呼ばれ、老年症候群のひとつとして介護予防の観点からも重視されてきました2。骨折した部位は固定して守り、それ以外の関節や筋肉は動かす——この切り分けが土台になります。ただし動かしてよい範囲は骨折の部位や治療方法によって異なるため、必ず主治医の指示をご確認ください。
廃用症候群が身体と心に及ぼす段階的な変化
変化は段階を追って現れるとされています。まず足腰の筋力が落ち、関節が固まる関節拘縮が生じれば、着替えやトイレにも時間がかかるように。動きにくさは「どうせできない」という気持ちを呼び、意欲の低下や会話の減少につながることもあります。
立ち上がったときのふらつき、食欲の落ち込み、便秘、睡眠リズムの乱れなど、影響が全身に及びうる点も見落とせません1。骨や関節の障害は要介護状態の主要な要因のひとつに挙げられており3、身体面と心理面の両方に目を向けた関わりが求められます。
ベッドの上から始められる時期別の予防運動とストレッチ

早期離床を目指す判断基準と足首・手指の体操
早期離床とは、可能な範囲で早い段階からベッドを離れ、座る・立つ・歩くという動作に戻していく考え方です。目安になるのは、骨折部の固定が保たれているか、全身の状態が落ち着いているか、そして主治医から荷重(体重をかけること)の許可が出ているかどうか3。「痛みがゼロになったら」ではなく、医師が示す荷重の段階に沿って進めるのが基本になります。
固定期間中でも取り組みやすいのは、次のような小さな動きです。
- 足首の曲げ伸ばし:つま先を上下に動かす。1セット10回、1日3回程度から
- 手指のグーパー運動:ゆっくり握って開く。ギプス固定中の指先の動きを保つ目的で
- お尻や太ももに力を入れる運動:関節を動かさず筋肉だけを収縮させる方法
- 深呼吸と肩回し:胸まわりをほぐし、呼吸に関わる働きの低下を抑える目的で
いずれも痛みが強まるようであれば中止し、次回の受診時にご相談ください。
動くのを嫌がる親への声かけと気持ちを前向きにする工夫
「動かないと弱るよ」という言い方は、かえって心を閉ざしてしまうことがあります。まずは「痛いのが怖いよね」と恐怖心を受けとめ、そのうえで目標を小さく区切るのがコツ。
生活動作そのものを運動にしてしまう発想も役立ちます。食事は布団の上ではなく食卓で、洗濯物たたみは椅子に座って。日課の中に自然な動きを織り込むわけです。体操をした日にカレンダーへ印をつける、好きなテレビ番組の時間に合わせるといった仕組みづくりも、継続の支えになります。「何ができないか」ではなく「今日は何ができたか」を一緒に確認する姿勢が、前向きな気持ちを保つ土台になります。
骨折の再発を防ぐ生活環境の整備と家庭での見守り方
転倒事故を防ぐ自宅のバリアフリー化と手すりの配置
高齢の方の骨折は、屋内での転倒がきっかけになる場合が少なくないとされています2。動くことを促すなら、動きやすい住まいづくりも同時に進めたいところ。
- 段差の解消:敷居やわずかな高低差にスロープを設置する
- 手すりの設置:玄関、トイレ、浴室、廊下、階段など立ち座りと方向転換の場所へ
- 床の整理:電気コード、新聞、めくれたカーペットを片づける
- 明るさの確保:夜間のトイレ動線に足元灯を置く
- 履物の見直し:かかとが覆われ、滑りにくい室内履きへ
手すりの設置や住宅改修は、介護保険の給付対象になる場合があります。ケアマネジャーへ相談すると、手続きの見通しが立てやすくなります。
介護者の負担を抑える過剰介護にならない見守り
心配のあまり何でも代わりに行ってしまうと、ご本人が動く機会は減っていきます。時間がかかっても、できる部分は任せる——この距離感が、結果としてご家族の負担軽減にもつながります。
目安としては、着替え・整容・食事の準備などは「見守りながら待つ」、浴室での移動や外出時の付き添いなど転倒の起こりやすい場面では「そばで支える」。そう切り分けてみてください。仕事と介護の両立に不安があるときは、抱え込まずに地域包括支援センターや通所リハビリの活用を検討しましょう。支援の手を増やすことも、立派な介護予防の一手です。
整形外科での専門リハビリ活用と骨を強くする食事習慣
地域の整形外科リハビリとケアマネジャーとの連携
自宅での体操だけでは判断に迷う。そんなときは、通院によるリハビリテーションを組み合わせる方法があります。整形外科では骨癒合の状態を画像で確認しながら、その時期に見合った運動の種類と量を調整していきます3。理学療法士が動作を直接確認するため、ご家族が自宅で介助する際の留意点も具体的に共有できます。
介護保険を利用中であれば、医療機関での方針をケアマネジャーへ伝え、通所リハビリや訪問リハビリと役割を整理しておくとよいでしょう。通院回数を抑えながら続けやすくなります。車での送迎が前提となる地域では、この調整がご家族の生活を支えるうえでも大きな意味を持ちます。当院では、超音波診断装置による軟部組織の確認やレントゲン検査を用いて経過を評価し、患者様お一人おひとりの状態に合わせたリハビリテーションのご提案を行っています。
骨粗鬆症の予防・治療とカルシウム・ビタミンDを補う栄養補給
高齢の方の骨折の背景に、骨粗鬆症が隠れていることがあります3。再び骨折を起こさないためには、運動と並行して骨そのものへの対策を考えることが大切です。
食事では、乳製品・小魚・大豆製品からカルシウムを、鮭やきのこ類、適度な日光浴からビタミンDを補い、筋肉の材料となるたんぱく質を毎食に取り入れることが、骨や筋肉の健康維持に役立つと考えられています1。極端な減塩や偏食は栄養の偏りにつながるため、まずは主食・主菜・副菜のそろった食卓を目指しましょう。
あわせて、骨の状態を数値で把握しておくことも参考になります。当院では骨密度測定装置(DEXA)を導入しており、骨粗鬆症の評価と定期的な経過確認に活用しています。食事や運動だけで判断せず、必要に応じて薬物療法を含めた方針を医師とご相談ください。
よくある質問
Q1. 廃用症候群を予防するにはどうしたらいいですか?
A. 骨折した部位は主治医の指示に沿って固定・保護しつつ、それ以外の関節や筋肉はできる範囲で動かすことが基本と考えられています。座る時間を増やす、食事は食卓でとる、日中はカーテンを開けて生活リズムを整えるなど、日常動作そのものを活動の機会にする工夫が続けやすい方法です。
Q2. 高齢者の骨折予防には何がありますか?
A. 転倒対策と骨対策の両輪で考えます。手すりの設置や段差の解消といった住環境の整備、滑りにくい履物への見直しに加え、骨密度の確認や骨粗鬆症の治療、カルシウム・ビタミンD・たんぱく質を意識した食事が挙げられます。服用中の薬でふらつきが出ていないかを確認しておくことも大切です。
Q3. 廃用症候群を予防する方法として適切なのはどれでしょうか?
A. 「痛みが完全に消えるまで一切動かない」よりも、「医師の許可を得た範囲で早期から少しずつ動く」という考え方が望ましいとされています。ベッド上での足首の運動や深呼吸から始め、座位、立位、歩行へと段階的に広げていく進め方が一般的です。
Q4. 老年症候群を予防するにはどうしたらいいですか?
A. 身体活動・栄養・社会参加の三つを保つことが柱になるといわれています。閉じこもりを防ぐために外出や人との交流の機会をつくり、食事量の落ち込みに早めに気づくことが役立ちます。気になる変化があれば、かかりつけの医療機関や地域包括支援センターへご相談ください。
Q5. 家族が自己流で体操をさせても問題ないでしょうか?
A. 骨折の部位や固定方法によって、動かしてよい範囲は大きく異なります。自己判断で進めず、受診の際に「自宅でどこまで動かしてよいか」を具体的にご確認いただくことをおすすめします。実際に動作を見せながら確認しておくと、ご家族も落ち着いて取り組みやすくなります。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省(政策・健康情報の入口) https://www.mhlw.go.jp/
3. 公益社団法人 日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/
山口大学医学部 卒業
山口大学医学部付属病院 卒後臨床研修
2005年
山口労災病院
2006年
山口大学医学部付属病院整形外科学講座へ入局
2007年
山口県立総合医療センター レジデント
2009年
周東総合病院
2012年
山口大学医学部 臨床助教
2014年
山口県立総合医療センター 整形外科 部長
2017年
瀬戸病院 副院長
2020年
瀬戸整形外科クリニック 院長
2022年
山陽小野田医師会 理事
日本整形外科学会 認定リウマチ医
日本リハビリテーション学会 リハビリテーション専門医
日本手外科学会 手外科専門医
日本プライマリ・ケア学会 認定医・指導医
国際マッケンジー協会認定セラピスト
日本スポーツ協会 スポーツドクター
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