
80代からのリハビリに迷うご家族へ
「もう歳だから通院しても仕方がない」——ご本人からそう言われると、ご家族としては返す言葉に詰まってしまうものです。転倒をきっかけに外出が減り、脚力の低下が気にかかる80代の親御様。高齢期であっても、身体の状態に合わせた運動療法には機能維持を目指す意義があると考えられています。本記事では、80代のリハビリで大切にしたい考え方と、身体への負担に配慮した進め方を整形外科の視点から整理します。
この記事の要点まとめ
- 80代でも身体状況に応じた運動療法は機能維持を目指す意義があると考えられている
- 本人の生活目標に結びつけ、痛みや体調を見ながら段階的に負荷を調整することが大切
- 通院負担は医療・介護保険や通所・訪問リハビリの活用で軽減できる場合がある
80代から始めるリハビリの効果と筋肉・関節への医学的アプローチ

年齢を理由にリハビリを諦めるべきなのかどうか。まずは、高齢期の身体と運動療法の関わりから整理していきます。
「何歳になっても筋肉は鍛えられる」とされる理由と機能維持の仕組み
筋肉量は加齢とともに減っていきますが、原因は「年齢だけ」ではありません。使わない状態が続くことで生じる廃用(動かさないことによる衰え)の影響も、かなり大きく関わってきます。安静に過ごす時間が続くと筋力は低下しやすいと指摘されており、動かない時間の積み重ねが脚力の衰えにつながりやすいとされています。
リハビリテーション医学の領域では、超後期高齢者と呼ばれる80代後半以降の方でも、身体状況に合わせた負荷を段階的にかけることで、筋線維への刺激や神経と筋の連携が保たれやすくなると考えられています2。筋肉が太くなる前段階として、まず「眠っていた筋線維を動員する神経の働き」が反応するとされ、開始から早い段階で動作のしやすさを自覚される方もいらっしゃいます。
もっとも、感じ方には個人差が大きいもの。数週間から数か月単位で経過を見ていく姿勢が求められます。診療ガイドラインでも、運動療法は疾患や全身状態を踏まえた個別設定が前提とされています1。
関節の柔軟性とバランス感覚を保ち歩行機能を維持する意義
歩行を支えているのは筋力だけではありません。股関節や膝、足首の可動域、そして姿勢を立て直すバランス機能。この3つが揃って、はじめて安定した一歩につながると考えられています。
高齢の方が歩行に困難を抱えるきっかけの一つが、転倒による骨折です。骨折後の安静期間が長引けば、そこからさらに活動量が落ちるという流れが生まれやすくなります。だからこそ、転倒予防を意識した立ち上がり動作の練習や、椅子を支えにした浅いスクワットなど、日常動作に結びつく運動が重視されます。
関節が硬いまま歩数だけを増やすと、膝や腰に負担が偏ることもあります。ストレッチで可動域を確保してから筋力へアプローチする——この順序が、高齢期の運動療法では大切な考え方とされています12。
高齢者の意欲低下や身体負担に配慮した無理のないリハビリの進め方
ご家族が一番悩まれるのは、運動の内容よりもむしろ「本人が乗り気でない」という点かもしれません。
「高齢だから通院しても無駄」という誤解と本人の気持ちへの寄り添い方
転倒を経験された方の多くは、「また転ぶかもしれない」という不安を抱えています。その不安が外出控えにつながり、さらに脚力が落ちていくことも。通院に前向きになれない言葉の奥には、諦めというより恐れが潜んでいる場合も少なくありません。
ここで説得を重ねると、かえって心を閉ざしてしまうことがあります。手がかりになるのは、ご本人の生活の中にある小さな願いを目標に置き換えること。「筋力をつけよう」ではなく、「近所の友人に会いに行けるように」「仏壇まで自分で歩けるように」。目標が具体的な生活場面と結びつくほど、自主性が生まれやすくなります。
院長として日々の外来で感じるのは、ご本人が「自分で決めた」と思える形になったとき、通院への向き合い方が変わるということ。ご家族はあくまで伴走役に徹していただくのがよいでしょう。作業療法士が趣味や家事の動作を切り口に関わる場面もあります。
体調や痛みの変化を見極めながら段階的に運動量を調整するポイント
80代では骨粗鬆症や変形性関節症を併せ持つ方が多く、負荷の設定には慎重さが求められます。目安としては、運動の翌日まで痛みや強い疲労が残るようなら、負荷が過剰なサインと捉えます。
- その日の体調確認:睡眠、食事量、血圧、むくみの有無を朝のうちに把握する
- 痛みの目安:動作中に鋭い痛みが出たらその場で中止し、次回スタッフへ伝える
- 休息の組み込み:連日ではなく1日おきなど、回復の時間を確保する
当院では骨密度測定装置(DEXA)による評価も行っており、骨の状態を踏まえたうえで運動内容を検討しています。骨折のリスクが高いと考えられる方には、床に座り込む姿勢や急な方向転換を避けるなど、動作の選び方から調整します。無理をしない日をつくることも、継続のための立派な工夫です12。
整形外科クリニックで理学療法士などの専門職へ相談する判断基準

「どのタイミングで相談すればよいのか」。この見極めが、その後の進め方を左右します。
受診時に医師や理学療法士へ伝えておきたい日常生活のチェック項目
診察室でのご本人は、遠慮から「大丈夫です」とおっしゃることがよくあります。だからこそ、日頃見守るご家族の観察情報が診療の手がかりになります。
- 歩行の様子:歩幅が狭くなった、すり足になった、手すりを探すようになった
- ふらつきの頻度:週に何回、どんな場面で起きるか
- 痛みの部位と時間帯:起床時か、歩行後か、夜間に強まるか
- 生活範囲の変化:外出回数、買い物や入浴の自立度
- 転倒歴:いつ、どこで、何につまずいたか
メモや短い動画で残しておくと、限られた診察時間でも状態が共有しやすくなります。当院ではレントゲンに加え超音波診断装置(エコー)による評価も併用し、関節や腱の状態を確認しながら方針を組み立てています。
家族の通院サポート負担を軽減しながら個別リハビリを導入する流れ
リハビリには医療保険と介護保険の枠組みがあり、原則として併用はできません。医療保険では医師の指示のもと整形外科などで運動器リハビリテーションを受ける形、介護保険では通所リハビリ(デイケア)や訪問リハビリを利用する形が中心になります。対象疾患や日数の定めがあるため、どちらが適するかは状態と生活状況を踏まえて検討します1。
お仕事と介護を両立されるご家族にとって、送迎の負担は現実的な課題です。週1〜2回から始めて自宅練習を組み合わせる、通所リハビリや訪問リハビリを併用する——そうした設計も選択肢になります。続けられる頻度に落とし込むことが、長い目で見た機能維持につながると考えられます。
当院はJR小野田線「南中川駅」から徒歩5分、バス停「千代町」からもすぐの場所にあり、駐車場もご用意しています。ご家族だけで抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターとあわせてご相談ください2。
よくある質問
Q1. 高齢者がリハビリをすることで、どんな変化が期待できますか?
A. 立ち上がりや歩行といった日常動作のしやすさ、関節可動域の維持、バランス機能の保持などが目的として挙げられます。ただし変化の程度や現れ方には個人差があり、疾患や全身状態によっても異なります。医師と理学療法士が状態を確認したうえで目標を設定していきます。
Q2. 高齢者の落ちた筋肉は戻せますか?
A. 加齢による変化を元へ戻すとお約束できるものではありませんが、身体に見合った負荷の運動を続けることで筋への刺激が保たれやすいと考えられています。高齢期でも運動療法に取り組む意義があるとされており、まずは無理のない範囲から始めるのが現実的でしょう。
Q3. 高齢者が1日運動しないとどうなりますか?
A. 安静が続くと筋力や持久力は低下しやすくなるとされています。特に入院や体調不良で数日寝て過ごした後は、歩行が不安定になることもあります。1日休んだだけで問題が生じるわけではありませんが、動かない期間を長引かせない工夫が大切です。
Q4. 変化を実感できるまでの期間はどのくらいですか?
A. 一概には言えませんが、動作のしやすさなどの自覚は数週間、筋力面の変化は3か月程度を一つの目安として経過を見ることが多いです。年齢や併存疾患によって差がありますので、経過を確認しながら内容を調整します。
Q5. 認知症がある場合でもリハビリは受けられますか?
A. ご相談いただけます。複雑な指示が難しい場合は、実際に動作を見せて一緒に行う、歌や生活動作と組み合わせるなど、理解しやすい形に工夫します。ご家族から普段の生活習慣を伺えると、進め方を検討しやすくなります。
参考文献
1. 公益財団法人 日本医療機能評価機構「Minds ガイドラインライブラリ」 https://minds.jcqhc.or.jp/
2. 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 https://www.jarm.or.jp/
山口大学医学部 卒業
山口大学医学部付属病院 卒後臨床研修
2005年
山口労災病院
2006年
山口大学医学部付属病院整形外科学講座へ入局
2007年
山口県立総合医療センター レジデント
2009年
周東総合病院
2012年
山口大学医学部 臨床助教
2014年
山口県立総合医療センター 整形外科 部長
2017年
瀬戸病院 副院長
2020年
瀬戸整形外科クリニック 院長
2022年
山陽小野田医師会 理事
日本整形外科学会 認定リウマチ医
日本リハビリテーション学会 リハビリテーション専門医
日本手外科学会 手外科専門医
日本プライマリ・ケア学会 認定医・指導医
国際マッケンジー協会認定セラピスト
日本スポーツ協会 スポーツドクター
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