成長期である、10~15歳前後の小学校高学年~中学生の子どもに見られる膝周りのスポーツ障害の一つに「オスグットシュラッター病(オスグット病)」があります。
オスグットシュラッター病は膝のお皿の下の骨(脛骨結節)が突き出し、痛みを感じる病気です。
今回は成長期の子どもに多いスポーツ障害「オスグットシュラッター病」について、症状・原因、および、治療&予防方法をご紹介します。
目次
■オスグットシュラッター病の症状
◎膝のお皿の下にある骨が突き出し、膝の下部が痛むことがあります
オスグットシュラッター病になると、膝のお皿の下にある脛骨結節(けいこつけっせつ)という部分がポコッと前に突き出し、膝の下部が痛むことがあります。
◎スポーツを休むと痛みがなくなり、再開すると痛みがぶり返すことが多いです
オスグットシュラッター病はスポーツを休むと痛みがなくなる傾向があります。しかし、「痛みがなくなったから大丈夫」と思い込んでスポーツを再開すると、痛みがぶり返すことが多いです。
■オスグットシュラッター病の原因
◎スポーツなどでの「膝の使い過ぎ」が主な発症原因
オスグットシュラッター病の主な発症原因は「膝の使い過ぎ(オーバーユース)」です。
・サッカーや陸上競技でダッシュする
・バスケットボールやバレーボールでジャンプする
上記のようなスポーツで、膝の曲げ伸ばしや地面を蹴る動作をくり返していると、オスグットシュラッター病を発症することがあります。
■オスグットシュラッター病の病態(疾患のメカニズム)
◎膝の使い過ぎにより、すねの骨(脛骨)の軟骨部分がはがれることで発症します
オスグットシュラッター病は膝の使い過ぎにより、成長期でやわらかい膝下の軟骨部分がはがれてしまうスポーツ障害の一つです。
以下のメカニズムによって軟骨がはがれることで、オスグッドシュラッター病を発症すると膝の下部が痛むことがあります。
①成長期で急激に伸びる足の骨に対し、足の太もも(大腿四頭筋)の筋肉の成長が追い付かなくなる
②骨の伸びに対して太ももの筋肉の長さが足りず、太ももの筋肉の付け根(膝下の付け根)が強い力で引っ張られる
③足の骨の伸びに対する筋肉の長さが足りず太ももの筋肉が引っ張られることに加え、スポーツで膝の曲げ伸ばしやジャンプなどの動作をくり返すことで、さらに太ももの筋肉が引っ張られる
④上記により2重の負荷(筋肉の長さが足りない+スポーツでの膝の使い過ぎ)で太ももの筋肉が継続的に強く引っ張られることで太ももの筋肉の付け根がある膝のお皿の下のすねの骨(脛骨結節)の軟骨部分がはがれ、膝の下部が痛む
◎オスグットシュラッター病で膝のお皿の下の骨が突き出す理由
オスグットシュラッター病を発症すると、膝のお皿の下、脛骨結節と呼ばれる部分が前にポコッと突き出すケースが多く見られます。
この突き出しは、はがれた軟骨の周辺に新たに作られた骨の隆起によるものです。
人間の身体は傷ついた部分に新しく血管を作り、修復する作用があります。
オスグットシュラッター病になり膝のお皿の下の軟骨がはがれると患部に血管が作られ、膝下の脛骨結節の周りに骨ができていきます。このときに作られた新しい骨により、膝の下が隆起して脛骨結節の部分がポコッと前に突き出ることがあります。
◎成長期である10~15歳の男子に多く見られます
オスグットシュラッター病は成長期特有の疾患です。成長期で骨組織がやわらかく、未成熟なため、軟骨がはがれやすいことがオスグッドシュラッター病の発症因子と考えられています。
通常、成人以降は軟骨を含む骨組織が硬くなっていくため、大人の方がオスグッドシュラッター病のような軟骨がはがれるスポーツ障害(軟骨の剥離骨折)を発症するケースは稀です。
オスグットシュラッター病は、男女比では全体のうち、男子が約11%、女子が約8.3%で男子が発症しやすい傾向があります(※)。成長期である10~15歳の男子にオスグットシュラッター病が見られることが多いです。
(※)Smith, James M., and Matthew Varacallo.
“Osgood Schlatter Disease.” (2017).
■オスグットシュラッター病の治療&予防方法
治療方法
◎まずは、スポーツを休むことが大切です
オスグットシュラッター病はスポーツ障害の一つです。膝の使い過ぎによって発症するスポーツ障害のため、オスグットシュラッター病になったときは、まずは、スポーツを休むことが大切です。
スポーツを休み、安静にすることで膝の下部の痛みを解消しやすくなります。
◎痛みが強いときはアイシングや湿布、痛み止めで症状の緩和にアプローチします
オスグットシュラッター病で膝の下部の痛みが強いときは、患部を冷やすアイシングが応急処置として有効です。
痛みが強いケースにおいては、整形外科で行う治療では湿布を貼って患部を冷やしたり、痛み止めの飲み薬で症状の緩和にアプローチします。
◎運動療法によるリハビリ
オスグットシュラッター病が原因で膝周りの筋肉や膝の関節の可動域が狭まっている場合は、以下のような運動療法によるリハビリを行うことで可動域の回復を目指します。リハビリにより、膝の痛みが軽減される効果も期待できます。
レッドコード
天井から垂らしたロープに足を入れて筋肉トレーニングを行い、膝の可動域を広げます。
マッケンジー法
ご自身で行う体操によりそれぞれの方に合った身体の動かし方や姿勢を見つけ、膝の痛みの軽減を図ります。
◎重度の場合は手術を検討します
オスグットシュラッター病は成長期における一過性のスポーツ障害であり、重症化することは稀です。
重症化は稀ですが、痛みがあるにも関わらず治療を受けずに放置した場合など、ケースによっては膝のお皿の下の軟骨がはがれて小さな骨片が遊離し、重度の状態に進行することがあります。
遊離した骨片が周辺の神経や組織を刺激しており、痛みが強いケースでは手術を検討します。手術では、遊離した骨片を摘出する骨片摘出術や、膝のお皿の下に溜まった血を抜く骨穿孔術が行われることが多いです(※)。
(※)手術が必要な場合は提携の病院をご紹介いたします。
予防方法
◎太もものストレッチ、専用サポーターが予防につながります
オスグットシュラッター病に対しては、太もも&太ももの裏側の筋肉を伸ばしてやわらかくするストレッチが予防に有効です。
スポーツの前後に太ももの前側の筋肉である大腿四頭筋、および、太ももの裏側の筋肉のハムストリングスをストレッチすることで筋肉がやわらかくなり、オスグットシュラッター病の予防につながります。
{オスグットシュラッター病を予防するための大腿四頭筋・ハムストリングスのストレッチのやり方}
以下の大腿四頭筋&ハムストリングスのストレッチをスポーツの前後に行うことで、オスグットシュラッター病を予防する効果を高められます。
大腿四頭筋のストレッチ
①椅子に座った状態で、片方の太ももの上面を手でつかみます
②手でつかんだ太ももを30秒~1分ほど左右に揺らします
ハムストリングスのストレッチ
①膝をかかえる形でしゃがみ、左右の側面から両手で両方の足首をつかみます
②両手で両方の足首をつかみ、お腹を太ももの前面にくっつけたままの状態で、できるだけ高くお尻を上げていきます
③お尻を高く上げた状態を20~30秒間キープします
{専用サポーター「オスグットバンド」も予防に役立ちます}
ストレッチに加え、オスグット用の膝のサポーター「オスグットバンド」もオスグットシュラッター病の予防に役立ちます。
■膝周りが痛いときに考えられるスポーツ障害
オスグットシュラッター病のほか、膝周り(膝の下)が痛むスポーツ障害としては、以下のような疾患があります。
1.ジャンパー膝
バスケットボールやバレーボールなどでのジャンプ動作のくり返しにより、膝のお皿(膝蓋骨)の下部につながる膝蓋腱が炎症を起こすスポーツ障害です。
ジャンパー膝になると、膝のお皿の下が痛むことがあります。
2.シンディング・ラーセン・ヨハンソン病
バスケットボールやバレーボールなどで行うジャンプ動作、および、ランニングなど、着地時にかかる膝への衝撃や膝の曲げ伸ばしのくり返しによって発症するスポーツ障害です。
オスグットシュラッター病は、膝のお皿の下にあるすね(膝の下のすねの骨に付着する筋肉の付け根)の軟骨がはがれることで痛みが生じます。
一方、シンディング・ラーセン・ヨハンソン病は膝のお皿の下の膝側の付け根部分(すね側の付け根よりも上)の膝蓋骨につながる膝蓋腱が炎症を起こしたり膝蓋骨の軟骨がはがれ、痛みが起きる点が特徴です。
【膝の違和感・膝の痛みがあるときはなるべく早めに整形外科で診察を受けましょう】
オスグットシュラッター病は、成長期の子ども特有の膝のスポーツ障害です。一過性の疾患のため、スポーツを休んで安静にすると共に、整形外科で受診して適切な治療とケアを行うことで多くの場合は症状が緩和し、膝の状態は回復に向かっていきます。手術が必要な状態にまで、オスグットシュラッター病が重症化するケースは稀です。
重症化は稀なオスグットシュラッター病ですが、治療を受けず放置すると膝下の状態が悪化しやすくなります。また、オスグットシュラッター病と勘違いしやすいジャンパー膝、シンディング・ラーセン・ヨハンソン病などの疾患もあるため、自己判断で膝下の痛みを放置するのはよくありません。
10~15歳前後の成長期のお子さまで、部活動などでスポーツを行っている方はオスグットシュラッター病をはじめとする各種のスポーツ障害に注意する必要があります。
膝の違和感・膝の痛みがあるときは、なるべく早めに整形外科で受診しましょう。
診察では医師が身体の状態を確認して検査を行い、患者様のご同意を得た上で適切に治療・ケアを進めていきます。