「ばね指」という言葉をご存知でしょうか?
指を握り込んで、伸ばそうとすると引っかかって伸ばせなくなり、
無理に伸ばそうとするとコクっと音がして指が伸びる「ばね現象」が起きることから名付けられました。
今回は、この「ばね指」について解説します。
1.どんな人がなりやすいのか?
更年期の女性、妊娠・出産後の女性、糖尿病の方に多くみられます。
2.「ばね指」の原因は?
「ばね指」の原因は、「腱鞘炎」です。指を曲げる筋を「屈筋腱」といいます。この屈筋腱が腫れると、滑車の役目を果たす「腱鞘」にひっかかり、「ばね現象」が起きます。
(日本整形外科学会 ホームページより)
3.「ばね指」の症状と診断は?
使うときの指の痛みと、指の付け根を押さえたときの痛みが特徴です。
「ばね現象」がない腱鞘炎もあり、リウマチに似た症状のこともあるため、レントゲンや血液検査を行う事があります。また、腱鞘炎の程度の把握や、ガングリオンなどの合併を把握するために超音波検査を行います。
4.治療は?
①安静
指の使いすぎによる腱の腫れを抑えるため、使いすぎを避け、強い力を入れすぎないようにします。テーピングで指の動きを制限すると痛みが改善します。
②塗り薬、湿布
鎮痛薬が皮膚から吸収され、腱の腫れや炎症を抑える効果があります。
③ストレッチ
下に解説する、「とくなが法」を行います。岩倉らは、この方法を1回30秒ずつ、1日10回以上行う事で、手術や注射を必要とする割合が減少したと報告しています。(ばね指に対するストレッチ「とくなが法」の治療効果.MB Med Riha (244):76-82.2020)
1.指を反らし「腱」をストレッチします
2.下写真のように指を曲げて力を入れる事で、「腱鞘」をひろげます(ブロックを用いた方法もあります)
4.おすすめ!注射治療
今まで説明した治療は効果的ですが、日々の生活の中で指を使わないことは現実的ではありませんし、テーピングや湿布は手洗いが出来ないなど不自由です。ストレッチは効果が出るまでに時間がかかりますので、痛みが強い場合や、早く痛みを取りたい場合は、効果が確実で早い注射治療がおすすめです。
ステロイドという炎症を抑える薬を腱の周囲に注射すると、腱の腫れが取れ、引っ掛かりや痛みが数日〜数週でほぼ改善します。
ただし、数ヶ月から半年程度で再発することがあり、1回の注射で完治する割合は、重症度によりますが40−70%と報告されています。
複数回の注射で完治率が向上しますが、腱周囲にステロイドを注射しすぎると、腱が切れてしまう例が報告されているため、私は注射を3回までにしています。
5.注射で再発を繰り返す場合の治療は?
注射で再発を繰り返す場合、手術を行います。指の付け根に局所麻酔を行い、約1.5cmの皮膚切開を行い、腱鞘の一部を切開します。
手術は外来、日帰りで行います。手術時間は15分程度です。
重症例では指の動きが悪くなっていることがあり、手術後にリハビリを行う事があります。
指の痛みの原因には、ばね指以外にもいろいろな病気がありますので、整形外科でレントゲンや超音波検査、血液検査などを行うことをおすすめします。
日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医
瀬戸信一朗