部活動を行う成長期の中高生に多いスポーツ障害に「野球肩」があります。
野球肩は古くから知られるケガですが、あまりにも一般的なため症状を見落としたり、「これくらいなら」と休まずにスポーツを続けてしまうケースが少なくありません。
治療をせず野球肩を放置していると症状が悪化して手術が必要になることもあるため、肩に違和感や痛みがある場合は注意が必要です。
今回は「野球肩」について症状と原因、治療方法をご説明します。
■野球肩
◎投球動作によって生じる肩関節の疾患を指します
野球肩とは、主にボールを投げる動作によって生じる肩関節の疾患です。野球以外にもテニスやバドミントン、バレーボール、やり投げなど、「振りかぶる動作(オーバースロー)」を行うスポーツでも野球肩を発症することがあります。
■野球肩の種類
野球肩は1つの疾患を指すのではなく、投球動作によって起きる肩の疾患の総称です。野球肩と呼ばれる肩の疾患は主に以下の4つがあります。
・上腕骨骨端線離開(じょうわんこつこったんせんりかい)
投球動作の繰り返しにより、肩関節につながる上腕骨(二の腕)の先端(骨端)にある軟骨が削れたり剥がれてしまう疾患です。骨が伸びる成長期の子どもに多いため、「リトルリーグショルダー」とも呼ばれます。
<症状>
・投球直後に肩関節(肩につながる上腕骨の先端)に鋭い痛みを感じる
<原因>
・投球動作の繰り返し
・誤ったフォームでの投球
・腱板損傷(けんばんそんしょう)
投球動作や肩より上に腕を挙げる動作の繰り返しにより、肩関節の中や肩甲骨から上腕骨の先端につながる腱板(平らな腱)が損傷する疾患です。
肩関節や肩甲骨から上腕につながる筋肉である棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)をつなぐ腱として腱板が構成されています。
腱板が部分的に傷つく状態を腱板損傷、損傷が進んで完全に腱板が切れてしまった状態を腱板断裂と呼びます。
<症状>
・投球をしたときに肩関節が痛む
・肩を回したとき(肩の回旋運動をしたとき)にコリコリしたり、肩の中でひっかかるような感覚がある
・腕を伸ばして横方向にゆっくり挙げたときに力が抜けるような感覚がある
・肩が痛くて夜、寝られない(夜間痛がある)
<原因>
・投球動作の繰り返し
・誤ったフォームでの投球
・肩より上に腕を挙げる動作の繰り返し
・ウエイトトレーニングなど、重い物を持って肩より上に腕を挙げたときにかかる過剰な負荷
・インピンジメント症候群
投球動作や肩より上に腕を挙げる動作の繰り返しにより、上腕骨が肩峰(けんぽう:肩甲骨上部の突起)や烏口突起(うこうとっき:肩甲骨前部の突起)に衝突して肩関節の炎症や損傷を起こす疾患です。
<症状>
・投球をしたときに肩関節が痛む
・肩を回したとき(肩の回旋運動をしたとき)にコリコリしたり、肩の中でひっかかるような感覚がある
・肩が痛くて一定の角度以上に腕を挙げられない
<原因>
・投球動作の繰り返し
・肩より上に腕を挙げる動作の繰り返し
・肩甲骨上神経損傷
投げ終わりの動作(腕を振り下ろす動作)をしたときに肩甲骨上神経が締め付けられ、肩や上腕の筋力が低下したり肩・腕の感覚障害をひき起こす疾患です。
<症状>
・肩や腕に力が入りにくい
・肩や腕にしびれや痛みを感じる
・肩より上に腕を挙げにくい
・肩や腕を回しにくい
・背中から肩甲骨(特に肩甲骨の内側部分)が浮き上がるように突き出している(翼状肩甲骨)
<原因>
・腕を振り下ろす動作(フォロースルー)の繰り返し
■野球肩の治療方法
野球肩は症状に合わせて以下の治療を進めていきます。まずは原因となる投球動作や肩に負担がかかる動作をしないことが大切です。痛みが落ち着いてきたら運動療法によるリハビリや物理療法を行い、症状の緩和と関節・筋肉の可動域改善を目指します。
・安静
痛みがある肩の投球動作や腕を挙げる動作を休止します。肩にかかる負担を軽減するためにサポーターを使うこともあります。
・消炎、鎮痛
痛みが強い場合は湿布などの外用薬や内服薬による消炎・鎮痛を行います。
痛みや症状の緩和のために肩関節の中にヒアルロン酸ナトリウムやステロイドを注入することもあります。
・運動療法(リハビリ)
ストレッチにより肩関節の可動域改善を行います。
初期段階で症状が軽い場合、または、症状が改善してある程度肩関節や腕を動かせる場合には肩関節のインナーマッスル(肩の4つの腱板につながる筋肉の先端部分)を強化する筋肉トレーニングも併せて行います。
・物理療法
アイシング、ホットパック、超音波・低周波治療器などを用いて痛みや症状の改善を目指します。
・手術
肩や腕の痛みが強く生活に支障が出る、または、スポーツの継続・早期復帰を望む場合には手術を検討します。
野球肩の手術は損傷した肩関節内の組織を取り除く手術や腱板をつなぎ合わせる手術などがあります。手術には侵襲が少ない関節鏡視下手術と通常の手術(直視下手術)があり、疾患や症状に合わせて手術を行います。
【肩の違和感や痛みがあるときは早めの受診を】
今回は部活動を行う中高生が発症しやすい「野球肩」についてご説明をさせていただきました。
野球肩を防ぐには肩を使い過ぎないようにすることが重要です。また、日頃から肩周りをはじめとして運動前・運動後の全身ストレッチをしっかり行うことで腱や筋肉の柔軟性が高まり、関節のケガの予防につながります。
ストレッチなどのセルフケアと併せ、肩に少しでも異常や痛みを感じた場合は整形外科で受診することが大切です。早めの受診が早期治療につながり、症状の悪化を防ぎやすくなります。
大切な肩の健康を守るためにも、肩の違和感や痛みがあるときはできるだけ早めに整形外科で診察を受けるようにしましょう。