腰痛を予防するにはどうしたらよいでしょうか?
腰痛の原因と、予防する生活習慣を整形外科医が解説します。
1.腰痛の原因の約8割は「腰椎(腰の背骨)・傍脊柱筋」
2001年にアメリカのDeyoらは「約85%の腰痛患者で、正確な病理解剖学的診断は不可能である」との論文を発表し、腰痛のほとんどは原因不明との認識が広まりました。しかしDeyoは腰痛の専門医でなく、総合診療医(初期診療を担当し、重篤な病態は専門医に紹介)であることから、2016年に山口大学整形外科の鈴木らは、320名の腰痛患者に対し、整形外科専門医による診察・画像検査・診断的ブロックを行い、原因が特定できた腰痛は78%であったとしています(「腰椎ガイドライン2019」にも記載)
2.腰椎を守るには?
腰痛の原因の約8割が腰椎・傍脊柱筋とすれば、どうすれば腰痛を防ぐ事が出来るでしょうか?
肩こり・腰痛が多く、背中の痛みは少ないという事実がヒントになります。
胸椎(胸の背骨)は肋骨が支えとなるので、頸椎や腰椎に比べ負荷がかからず痛みにくいのです。
腰痛を防ぐには、「腰椎に対する力学的な負担を減らす事」が重要なのです。
さて、「腰椎に力学的な負荷がかかりにくい姿勢」とはどのような姿勢でしょうか?
猫背(腰椎が後ろに凸)が悪い姿勢、腰を軽く反らす(腰椎が前に凸)のが腰椎に良い姿勢とされています。猫背では、体の重心の軸から背骨が離れており、てこの原理で腰椎や椎間板に負担がかかるのです。
また、腰椎が後ろに凸になっている腰痛患者は腰背部の筋緊張が強い状態が続いているとの研究があり(榎本ら MB Orthop. 2015)、筋筋膜性腰痛の原因の一因になっている事が示唆されています。
3.腰痛を予防する生活習慣
腰痛を予防する為には、日常生活で腰椎に対する力学的負荷を減らす事が大切です。
つまり以下の2つがポイントになります。
腰痛を予防する生活習慣のポイント(1)
低い所で動作を行う際は、腰椎が後ろに凸になった状態(いわゆる中腰)を避け、腰を落として反らし気味に保ちます。
対象物を高い位置にして、中腰にならなくても済む環境を作るのも良い方法です。
具体例は、以下の通りです
・介護で移乗介助を行う場合は、ベッドを高くする
・洗濯物を干す際は、洗濯かごを椅子の上に置く
・掃除の際は、柄を伸ばす
・パソコン業務の際は、椅子を低くし、PCの下にマガジン等を置き高くする
・運転など長時間座る際は、腰の後ろに枕を入れ猫背を防ぐ
腰痛を予防する生活習慣のポイント(2)
接点を増やし、体重のかかる場所を分散させる事で腰椎への負荷を減らします
具体例は、以下の通りです
・起き上がる際にはまず側臥位になり、手と肘をついて起き上がる
・顔を洗う際は、膝やお腹を洗面台にくっつける
・靴下は椅子に座って履く
・草取りは、低い椅子を置き座りながら、あるいは片膝をつきながら行う
4.危険な腰痛とは?
腰痛の中には、一般的な治療では治らず、逆に悪化するような危険な腰痛があります。
例えば腰椎椎間板ヘルニア、神経圧迫、癌の転移、感染、骨折、内臓由来、炎症性腰痛、大動脈解離などです。
対処療法で治らない腰痛がある場合は、整形外科を受診下さい。整形外科では、問診・神経学的診察・血液検査・各種画像検査を組み合わせ危険な腰痛を除外し、痛みの原因に基づいたブロック注射や理学療法(ストレッチや筋肉トレーニング指導、生活指導、徒手療法等)を行います。必要があれば総合病院へ紹介します。
総合病院では精密検査や、手術治療を行います。腰椎椎間板ヘルニアに対するコンドリアーゼなど、新しく有用な治療も増えてきています。
なかなか治らない痛みはつらいものですが、近年ペインセンターを併設している総合病院も増えてきました。麻酔科・整形外科・精神科・リハビリテーション科など多職種の医療職が協力して集学的治療を行い、難治性の痛みを改善していきます。
5.まとめ
さて、原因の8割を占める腰椎・筋由来の腰痛の予防について解説してきました。
予防法だけでは腰痛を完全になくす事は出来ませんが、腰椎に対する力学的な負荷を軽減する生活習慣を身につけて腰痛の頻度を減らし、将来的な腰椎の変形や重大な疾患を予防して頂ければ嬉しく思います。
日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医 瀬戸信一朗