むち打ち症(頸椎捻挫)とは、主に交通事故で強い衝撃が首にかかり、痛み、めまい、吐き気、手足のしびれなどが発生する疾患です。
今回は「むち打ち症」についてご説明します。
目次
■むち打ち症をひき起こす交通事故の種類
むち打ち症は、主に交通事故により強い衝撃を首にうけたことが原因で起こります。むち打ち症をひき起こす交通事故のぶつかり方は多い方から以下の3種類があります。
1位 後方からの追突
2位 正面衝突
3位 側面からの衝突
むち打ち症を起こす交通事故でもっとも多いのは1位の「後方からの追突」です。後方からの追突がむち打ち症の9割を占めています。後方からの追突以外にも、正面衝突や側面からの衝突でむち打ち症になることもあります。
■むち打ち症が起きるメカニズム
交通事故でむち打ち症が起きるのは、強い衝撃によってムチのように首がしなり、その反動で急激に首が戻るためです。
1.交通事故で衝撃がかかると「首がしなる」
むち打ち症をひき起こす最初の負荷は「首のしなり」です。
交通事故で強い衝撃がかかると、ムチのように首がしなります。一番多いぶつかり方である後方からの追突では、後方からぶつかられたことで胴体が前に出ると共に、後ろに反る形で首がしなります。
反対に、正面衝突では胴体が後ろへ突き出し、前に首が曲がります。側面からの衝突では左右どちらかに首がしなります。
強い衝撃によって瞬時に首がしなる(首が曲がる)ため、非常に強い負荷が首にかかって以下の組織にダメージを受けます。
・首の筋肉
・頚椎(けいつい:首の骨)
・頚椎の神経(=脊髄(せきずい:神経の束)、および、神経根(しんけいこん:神経の根元))
・頚椎の靭帯
・頚椎の椎間板
2.首がしなった反動で「急激に首が戻る」(反対方向への首の動き)
むち打ち症をひき起こす第2の負荷は「首の戻り」です。
首がしなった反動で急激に首が戻ることにより、非常に強い負荷が首にかかって前述の組織にダメージを受けます(二重のダメージ)。
{交通事故以外でむち打ち症になることも}
交通事故でむち打ち症になるのは、ぶつかられたことによる「首のしなり」と「急激な首の戻り(反対方向への首の動き)」が起きるためです。
強い衝撃を首に受けることで起きるため、交通事故以外の以下のような事故でもむち打ち症になる場合があります。
・頭を上げたor下げたときに強く頭をぶつける
・スキーやローラースケートなどで転倒して頭をぶつける
なお、意外とむち打ち症が少ないのがボクシングなどの格闘技やラグビーなどのコンタクトスポーツです。格闘技やラグビーをする方は首を鍛えており、なおかつ、試合中には首に力を入れています。このため、衝撃を受けたときに首へのダメージが軽減され、むち打ち症になりにくいとされています(※)。
(※)格闘技やコンタクトスポーツでむち打ち症を起こすケースもあります。
■むち打ち症の怖さ
◎むち打ち症の症状は事故直後よりも「後から出てくる」ことが多いです
むち打ち症が怖いのは、事故直後よりも後から(数時間後~)症状が出てくることが多い点です。
事故直後に症状を感じないことで「痛くないから」と診察を受けず、後になってむち打ち症の症状が現れあわてて診察を受けた…というケースが少なくありません。
むち打ち症で事故直後に症状を感じにくい理由については、はっきりとは解明されていません。事故の衝撃で脳が興奮状態になり、アドレナリンやベータエンドルフィンなどの脳内物質が分泌されて痛みを感じにくくさせているため、と考えられています。
◎むち打ち症の症状が出るまでの期間は事故の種類や患者様によって差があります
むち打ち症は事故直後ではなく、事故の数時間後から翌日にかけて痛みなどの症状が現れることが多いです。
事故の種類(ぶつかり方、衝撃の強さ)や患者様により、むち打ち症の症状が出るまでの期間に差があります。
症状を感じるタイミングでもっとも多いのが事故当日、および、翌日ですが、事故後、数週間以上経ってから症状が出始めることも珍しくありません。事故の数ヶ月後にむち打ち症の症状が現れるケースもあります。
■むち打ち症の症状
むち打ち症になると首や頭の痛みのほか、以下のようなさまざまな症状が現れることがあります。
①痛み
・首の痛み
・頭痛
・両腕の痛み
②首のこわばり
・首が痛くて回せない
・首の筋肉がつっぱっている感じがする
③首・頭・肩の重さ、だるさ
・首・頭・肩が重い、だるい
・肩こり
・肩(主に僧帽筋)の張り
④手足の異常
・手足のしびれ
・手足のこわばり
・手や足でふれたときの感触が鈍い
・握力の低下
・手や足に力が入らない
・手や足の指先に力が入らない
⑤目の異常
・めまい
・目のかすみ
・目の疲労感
⑥その他の症状
・吐き気
・倦怠感(常にだるさがある)
・睡眠障害(不眠や中途覚醒など)
・記憶障害
■むち打ち症の治療方法
◎整形外科では「頸椎捻挫」のむち打ち症の治療を行います
むち打ち症の症状の中でももっとも多いのが首の筋肉や首の靭帯、頚椎の関節包が損傷する「頸椎捻挫(けいついねんざ)」です。むち打ち症の症状のうち、約70%以上を頸椎捻挫が占めます。頸椎捻挫のほか、むち打ち症の症状には脊髄・神経根の障害、自律神経の障害、髄液(頭の中の脳脊髄液)の漏れによる障害などがあります。
整形外科では症状に合わせ、以下のような方法でむち打ち症(頸椎捻挫)の治療を行います。基本は安静を中心に保存療法を行い、首や身体の状態を見ながら物理療法・運動療法によるリハビリを進めていきます。痛みが強い場合は鎮痛剤(飲み薬)や湿布などの薬物療法での対処のほか、状態によっては筋膜リリース・トリガーポイント注射を行い、症状の緩和につなげます。
なお、脊髄・神経根の障害や髄液の漏れによる障害のような、頸椎捻挫以外のむち打ち症の症状が見られるケースでは脳神経外科などの各診療科目にてそれぞれの状態に合わせた治療が必要になることがあります。
◎整形外科で行うむち打ち症(頸椎捻挫)の治療内容
①安静
むち打ち症の症状を緩和・改善するためには、まずは患部の安静が大切です。むち打ち症では多くのケースで頚椎カラーを使用し、首、および、頭部の安静を保ちます。
②リハビリ(物理療法・運動療法)
安静後は、首や身体の状態を見ながら物理療法・運動療法によるリハビリを進めていきます。
≪物理療法≫
・牽引療法
・温熱療法
・マイクロ波・低周波療法
≪運動療法≫
・頭部筋力訓練
・可動域訓練(レッドコード)
・リラクゼーション
・マッケンジー法
③薬物療法
首や身体の痛みなど、症状が強い場合は鎮痛剤(飲み薬)・湿布による薬物療法を行い、症状の緩和につなげます。
④注射
首や身体の痛みやだるさが強く、リハビリ・薬物療法のみでは症状を抑えにくい場合は筋膜リリース・トリガーポイント注射を行い、症状の緩和につなげます。
【交通事故に遭い、むち打ち症の可能性があるときは整形外科へ】
瀬戸整形外科クリニックでは、むち打ち症をはじめとする交通事故の治療に力を入れております。
むち打ち症に限らず、交通事故に遭ったときはすぐに外科、または、整形外科で診察を受けてください。事故直後に診察・検査を行うことで頭部や首、身体の状態をいち早くチェックでき、早期治療につながります。また、賠償金の支払いなど、むち打ち症と交通事故の因果関係を法的に証明するためにも、正式な医療機関にて受診することが大切です。
タイミングとしては事故直後に受診していただくのが望ましいです。事故から時間が経ってむち打ち症の症状が出始めたときも、できるだけ速やかに整形外科で診察を受けることをおすすめします。
むち打ち症を放置すると、全身の神経をつかさどる頚椎の損傷や脳脊髄液の漏れにより身体を動かせなくなる(手足の麻痺)・重い記憶障害が残るなど、重篤な状態に進行してしまうケースもあります。
交通事故に遭った、または、頭部・首に強い衝撃を受けてむち打ち症の可能性があるときはなるべく早く整形外科へお越しください。医師による診察・検査を行い、患者様のご同意を得た上で状態に合わせた治療を進めていきます(※)。
(※)頸椎捻挫以外のむち打ち症の疑いがある場合は各診療
科目での受診をアドバイスさせていただきます。