更年期(45~55歳頃)や妊娠・出産期の女性に多い手指の症状の一つに「ばね指」があります。ばね指とは、指を曲げ伸ばすときに文字通りバネのように指がはねたり、指がかくかくする疾患です。
今回はお悩みの方も多い「ばね指」の症状や原因、治療方法について解説します。
目次
■ばね指とは
◎指の腱が炎症を起こして指の動きが悪くなる疾患
ばね指とは、指の腱(けん)が炎症を起こして指の動きが悪くなる疾患です(指の腱鞘炎)。
腱は筋肉と骨を結び付ける組織であり、弾力のある腱が伸び縮みすることでより効率的に身体を動かす役割を持っています。
指の腱は手の平側の骨につながる腱鞘(けんしょう)というベルトループのような輪っかに通っており、腱鞘で腱を押さえることで腱が浮き上がらないようにコントロールしています。
しかし、何らかの原因により腱鞘に炎症が起きると腱鞘が腫れて通り道が狭まってしまい、中を通る腱にひっかかりが生じることがあります(=ばね指)。腫れて肥大した腱鞘にひっかかることで、擦られた腱に炎症が起きるケースもあります。
■ばね指の症状・なりやすい指
◎指を曲げ伸ばすときに指がはねたり、指がかくかくする
ばね指になると腱鞘の肥大により、腱鞘の中を通る腱にひっかかりが生じてスムーズに動きにくくなります。ひっかかりが生じるため、指を曲げ伸ばすときにビョン、ピコンとばねのように指がはねたり、指がかくかくすることがあります。
◎指を曲げ伸ばすときに痛みを感じる、自力で指を戻せない
ばね指は指を曲げ伸ばすときや指の付け根を押さえたときに痛みを感じやすいです。指が腫れているような痛みや熱を持った指の痛みを感じる場合はばね指の可能性があります。
ばね指が進行すると、折り曲げた指を片方の手で伸ばさないと戻せなくなってしまうことがあります。重度のばね指では自力で指を曲げ伸ばすことができなくなり、日常生活に大きな支障が出るケースも少なくありません。
◎指の付け根の近くにしこりができる
ばね指になると指の第2関節と指の付け根のあいだに米粒大ほどの硬いしこりができることがあります。かなり硬いしこりのため、指の骨が飛び出てきた、と勘違いしてしまう場合も。
◎ばね指になりやすいのは親指 ほかの指に起きることも
ばね指になりやすいのは日常で使う頻度が多い親指です。なりやすいのは親指ですが、ほかの指がばね指になることもあります。
■ばね指の原因・なりやすい人
◎主な発症原因は指の使い過ぎ
ばね指の主な発症原因は家事や仕事などによる指の使い過ぎです。
指の使い過ぎのほか、更年期や妊娠・出産期にある女性はホルモンバランスの乱れによって身体の組織が弱まり、ばね指を発症しやすいとされています。
糖尿病の方もばね指を発症しやすいとされています。なぜ、糖尿病がばね指を発症しやすいのかははっきりとは解明されていません。血糖値の高さが原因で組織の肥大が生じやすいことがばね指の発症と関係しているのではないかと考えられています。
更年期や妊娠・出産期の女性に多いばね指ですが、男性や乳幼児も発症することがあります。特に仕事やスポーツ、趣味などで指を使い過ぎている方はばね指の発症リスクが高まります。
■ばね指の治療方法
①安静
まずは安静にし、なるべく指を使わないようにします。安静のため、テーピングで指を固定することもあります。
②塗り薬、湿布、痛み止めの内服
指の腫れや痛みが強い場合は塗り薬・湿布を用いて症状の緩和につなげます。痛み止めの飲み薬を処方する場合もあります。
近年発売された、ジクロフェナクナトリウム含有テープはばね指の治療成績を非常に改善しました。
③ストレッチによるリハビリ
ばね指を改善するためにはまずは安静を保つことが重要です。しかし、お箸を持つ、物をつかむなどの場面で指は必要不可欠なため、指をまったく動かさないと生活に支障が出る可能性があります。また、長期間指を動かさないと曲がったまま指が固まってしまうおそれも。
指の状態にもよりますが、できるならば安静後は様子を見ながら毎日少しずつ指のストレッチを行うことで指の可動域が広がり、注射や手術を回避する確率を高められます。
ばね指のリハビリで行う主なストレッチには「とくなが法」があります。とくなが法の手順は以下をご参照ください。
1.片方の手で指先をひっかけて指を反らし、指の腱を伸ばす
2.片方の手の平の付け根あたりにばね指の手の指先(指の腹側)を置き、指の付け根(拳頭、ナックルパート)から指を曲げて力を入れる(力を入れることで腱消を広げていきます)
とくなが法による指のストレッチは1回30秒ずつ、1日に10回以上行うことが推奨されています。
④スプリント
熱湯で形成できるシーネを用いて、指の安静を保つためのスプリントを作成します。日中の装着は不具合が多いため、寝ているときに装着していただきます。
④注射
指の腫れや痛みがひかない、または、できるだけ早く痛みを取り除きたい場合はステロイド注射を行うことがあります。
患部にステロイドを注射することで炎症が抑えられて腱の腫れがひき、指の痛みやひっかかりが解消される効果を期待できます。即効性がありますが、3か月程度で半数の方が再発すること、多数回の注射を行った場合、腱断裂を起こすことがあるので、使用する場合は注意が必要です。
⑤手術
上記の治療を行っても症状の再発を繰り返す場合は手術を検討します。
ばね指の手術では指の付け根に局所麻酔を行い、1.5cmほど皮膚を切り腱鞘を切開します。
手術は外来、日帰りで行います。手術時間は15分程度です(※)。手術後はリハビリを行い、指が固まらないようにします。
(※)目安です。患者様や症状によって手術時間が異なります。
【ばね指の最新の治療について】
ばね指は重症化すると自力で指の曲げ伸ばしができなくなることがあります。箸をはじめ、ペンやスマホ、パソコンなど、毎日の生活において指の動きは欠かません。ばね指を放置して指が固まってしまうと、さまざまな場面で支障が出やすくなります。
重症化を防ぐためにも、指の痛みや違和感があるときは整形外科までお早めにご相談ください。